私の好きなこと

私は日本のことわざが大好きです。ことわざはその国の文化伝統の知恵のまとめだと思います。特に好きなことわざは「猿も木から落ちる」や「失敗は成功の基」です。

実は、聖人伝に書かれている完璧な聖人が好きではありません。なぜなら欠点のない人のように書かれているからです。聖人の長所や成功したことだけが書かれていて、別世界の人の非現実的な物語のように思えるからです。読んでもあまり感動せず、むしろガッカリした気持ちになります。以前、私は聖フランシスコ・ザベリオがあまり好きではありませんでした。けれども「聖フランシスコ・ザベリオの失敗」という本を読んで考えがだいぶ変わりました。この本は、彼が書いた手紙を紹介し、彼の苦労と計画の頓挫、期待外れ、失望、虚しさや誘惑などを伝えています。この本によって、ザベリオは人間らしい姿をとり、私の励ましになりました。私の部屋には、神戸南蛮美術館所蔵のザベリオの人物画の複製があります。この絵を描いたのは17世紀の日本人画家で、天草の崎津で絵の勉強をしたようです。私は以前、崎津協会の司祭でしたので、このザベリオの人物画が大好きです。

細井氏の木彫り作品をイラストしたもの

私の部屋の別の壁には、木の彫刻がかかっています。茅ヶ崎教会の細井さんの作品です。嵐の湖で、沈みかけたペトロがイエス様に向かって「主よ、助けてください」と叫び、イエス様が手を出してベトロの手をしっかりと握り、「恐れるな。私はあなたと共にいる。」という場面です。私は聖ペトロが大好きです。ペトロは聖書の中でも完璧な人間からはほど遠い存在です。漁師としてはあまり上手ではなく、一晩中、漁をしても一匹の魚も捕れなかった、と聖書に書いてあります。衝動的な性格で、考えなしにものを言ったり、したりする人でした。ゲッセマニの園では刀を抜いて大祭司の家来の耳を切り落としました。ある時は信仰が浅く、名声と地位のこと、自分はどういう報いを受けるかと考えました。また、他の弟子たちを見下したり、人種差別をしたり、本当に自己中心的な考え方をしました。そして、自分は何でもできる、神様の助けなどいらないと思い、たびたび神様を侮辱もしました。人の思惑を気にして最後には主イエスを歪み、病にも逃げてしまいました。
けれども、イエス様はペトロの弱さ、失敗、短所のすべてを知って、なおかつありのままのペトロをいつも受け入れてくださいました。ペトロはイエス様とその道から離れてしまいましたが、イエス様は決してベトロを見捨てませんでした。ペトロはイエス様の無条件の愛を具体的に経験しました。この限りない愛は、ペトロの心に大きな影響を与え、ペトロは立ち上がって新しい出発をしました。
日本のことわざ「七転び八起き」のように、ペトロは何回も転びましたがイエス様の優しい励ましのおかげで立ち上がりました。ペトロの手紙に書いてありますように「思い煩いは何もかも神にお任せしなさい。神が、私たちのことを心にかけてくださるからです。(第1の5-7)」と「愛は多くの罪を覆う(第1の4-8)」のです。

当時のペトロに対するイエス様と、現代の私たちに対するイエス様の心は同じです。聖書の中のペトロの失敗は私たちの励ましとなります。イエス様の道は、完璧な人間への道ではなく「自分の足りなさをみとめる人の道です」。私たち一人一人は「私はベトロです。」と言うことができます。人生の嵐の中でベトロと同じように「主よ、助けてください」と叫ぶとき、私たちにも「恐れることはない。私はあなたと共にいる」。というイエス様の声が聞こえてくるでしょう。ペトロの場合も私たちの場合も、「失敗は成功の基」なのです。
私は完璧でないペトロが大好きです。

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